2015年5月22日金曜日

てい談 生活困窮者自立支援制度 <下>

公明新聞:2015年5月22日(金)付
生活困窮者の自立支援をめぐり語り合った山本、奥田、鶴の各氏生活困窮者の自立支援をめぐり語り合った(右から)山本、奥田、鶴の各氏
広域で取り組む方式も
焦点は自治体の任意事業
関係機関が情報共有し推進を
山本香苗・厚生労働副大臣(公明党、参院議員) まもなく各地方議会で6月定例会が始まります。議員の皆さんには、生活困窮者自立支援制度の周知徹底はもちろん、関係部署や関係機関との連携体制を構築し、早期発見・早期支援を行っていただければと思います。

先進的な事例として、大阪府豊中市のコミュニティソーシャルワーカー(CSW)は、制度の隙間を埋めるために、行政の課長クラスが集まって「ライフセーフティネット総合調整会議」を開催し、解決に向けた仕組みをつくり出しています。

鶴伸一郎・公明党東京都品川区議 行政はもちろん、社会福祉協議会や民間団体、保健師など、多くの関係者が参加し、情報共有や問題解決に向けた議論を行うことが大切です。困窮者の自立に向けた支援計画の評価・修正なども検討することで、より困窮者の実情に即した取り組みへ練り上げることが期待できます。品川区でも、今年の夏までにこうした協議会の設置をめざしています。

奥田知志・認定NPO法人抱樸理事長 地方では規模の小さい自治体が多いので、工夫が必要ですね。

山本 小規模な自治体にとっては、滋賀県野洲市の方式が参考になると思います。市役所内に設置された窓口が生活相談を一手に引き受け、住民税の滞納状況などの行政情報をもとに、生活困窮者の早期発見につなげています。

また、秋田県藤里町(人口約3600人)では、社会福祉協議会が住民を戸別訪問した結果、ひきこもりの人が113人に上ることが判明したそうです。そこから一般就労につなげる取り組みを推進しました。町村でも、相談者が窓口に来るのを待つだけでなく、アウトリーチ(訪問支援)を推進していくことが必要です。

 品川区は、就労準備支援や困窮世帯の子どもに対する学習支援など、ほぼ全ての任意事業を実施しています。区の担当者の話では、当初の予想を超え、すでに100人を超える相談者が訪れているそうです。

これまで、区民からさまざまな生活相談を受けても、生活保護に至る前の状態では、行政の窓口では十分な対応ができないのが現状でした。今回の制度は、こうした法律のはざまで苦しむ人々を守るためのものであり、現場の地方議員として非常にありがたいことです。

山本 さまざまなニーズに対応する新たな任意事業に自治体独自で取り組んでいくことが必要です。来年度を待たずに今年10月から実施する場合には、今年度、国庫の追加協議も行う予定ですので、ぜひ前向きにご検討いただきたいと思います。

奥田 人口の少ない自治体が全ての任意事業を実施するのは、予算的に厳しい面もあります。そこで、必須事業は各市区町村が行い、任意事業は都道府県がコーディネートして、複数の市区町村が集まった広域連合が担うという方式も考慮すべきでしょう。

静岡県では、七つの市が集まって広域連合を形成しています。県が音頭を取り、予算については7市で応分の負担をしている。こういう取り組みを全国に広げるべきではないでしょうか。

山本 地域格差をなくすためにも重要な指摘です。自治体の任意事業の実施状況などを見ながら、都道府県が調整機能を果たすことも必要だと思います。この点に関しては、都道府県議会の議員にも関心を持って取り上げてほしい。

 品川区の場合は、相談窓口は区役所に1カ所設置されているだけです。これでは、本当に困窮している人が区役所まで足を運ぶことは難しい。だからアウトリーチを行い、地域とも連携しながら「伴走型」で支援をしていきたいと思います。

奥田 任意事業には「その他の事業」という項目があります。比較的、自由が利くと思いますので、ここに調整機能を盛り込めるのではないでしょうか。

国も全国社会福祉協議会に依頼して、相談支援員の育成を進めていますが、まずは、今ある地域社会の「資源」、とりわけ民間の担い手をどこまで活用できるかが重要です。一過性ではなく、日常生活の継続的な支援活動を地域で担う民間の人材を育成しなければなりません。

 これまでは、一部の担い手が幾つもの役割を担ってきました。持続可能な制度にするため、人材育成は重要な視点です。周知の徹底も必要です。公明党の議員として誰よりも現場を歩き、それぞれの地域に浸透させていくことに全力で取り組みます。

「絆」を強め、新しい地域社会の創造へ

山本 自立支援制度は人々の「絆」を強め、地域づくりの基盤となるものです。今、各地で進められている地域包括ケアシステムの構築も視野に入れ、各自治体が困窮者支援全体を見通せるような形で進めていけるようにしなければなりません。国としても縦割りを排除し、実情に合わせた地域の再生につなげていきたい。

奥田 公明党は、ホームレス自立支援法の生みの親でもあります。2012年8月までの時限立法でしたが、5年間の延長を推進してくれました。生活困窮者自立支援制度ができたことで、支援の実態は自立支援制度の枠に入りますが、理念法として、今後も残してほしい。

日本は、かつてのように中間層が厚い社会に戻ることはないでしょう。そうした低成長の中でも、人が幸せに生きていくために何ができるのか。公明党が、そういう理念に基づいて行動していることを評価します。

それぞれの自治体で自立への出口戦略をしっかりと確立し、困窮・孤立者を生まない新しい地域社会の創造に向けた取り組みを、公明党に期待しています。

生活困窮者自立支援制度

4月施行の生活困窮者自立支援法に基づく制度。必須事業として、自治体に総合相談窓口の設置を義務付けた上で、相談者の自立に向けたプランを作成し、必要な就労支援や福祉サービスにつなぐ。離職などにより住居を失った人、または、その恐れのある人には家賃相当の給付金を一定期間、給付する。

任意事業は、(1)就労に向けた訓練(2)ホームレスらへの宿泊場所や衣食の提供(3)家計に関する相談・指導(4)生活困窮世帯の子どもへの学習支援―など。その他、困窮者の自立支援の促進に必要な事業を行うことができる。