公明新聞:2015年5月21日(木)付
新たな人生へ挑む人に寄り添う
認定NPO法人 抱樸 理事長 奥田 知志 氏
厚生労働副大臣(公明党、参院議員) 山本 香苗 さん
東京・品川区議会 公明党 鶴 伸一郎 氏
公明党が成立に全力で取り組んできた生活困窮者自立支援法が4月から施行されました。仕事や健康などで深刻な問題を抱えた人を生活保護に至る前に支え、新たな人生への挑戦を後押しする画期的な法律です。この法律に基づく自立支援制度を生かすには、自治体をはじめ関係者の理解と積極的な取り組みが不可欠です。具体的な支援策をつくる上で、地方議員に求められていることは何か。認定NPO法人抱樸の奥田知志理事長、山本香苗厚生労働副大臣(公明党、参院議員)、地方議会でいち早く具体策を取り上げた東京都品川区議会公明党の鶴伸一郎氏に語り合ってもらいました。
山本 経済的な問題だけでなくあらゆる悩みに対応可能
山本 生活困窮者自立支援制度は、生活する上でさまざまな困難を抱える人を地域で自立して生活できるように、個々の状況に応じ、その人の主体性を尊重しながら、相談・支援する制度です。「生活困窮」と一口にいっても、経済面や家族関係、精神的な問題など多くの理由があり、複雑に絡み合っている場合もあります。
鶴 そのような人たちは、なかなか声を上げられず、支援にたどり着けなかったり、既存の制度では救済されず、社会的に孤立したりしているケースが少なくありません。
山本 公明党は結党から半世紀にわたり、生活者に寄り添い、支え続けてきました。民間の立場から、そうした人々の支援に先駆的に取り組んでこられたのが奥田さんたちのような団体です。
今回の制度はいわば、公明党の精神を体現するものであり、民間団体の熱い思いが結実した制度だと思っています。国も地方自治体もしっかり責任を持って、民間と協働体制で、生活困窮者を包括的に支援していきます。
奥田 私たちの活動は今年で27年目を迎えました。ホームレスの支援から始まり、今では生活困窮者支援、さらに貧困家庭の子どもへの学習支援も行っています。困窮者支援の現場に身を置く立場として、今回の制度は本当にうれしく思います。
鶴 制度の特徴をどう見ていますか。
奥田 一言で言うと、「人が人を支援する」ことに力を入れている点でしょう。これまでは、生活困窮者支援というと、お金などの「給付」になりがちでしたが、今回は住宅に関する給付を除いて、それがありません。制度の軸は、相談者をいかに既存の給付制度に結び付けられるかというコーディネート(調整)機能です。
鶴 既存の制度に人を合わせるのではなく、人に合わせて柔軟に制度を活用できるようになったということですね。
奥田 相談者をいかに制度へつなぐか、調整機能が軸
山本 法律における「生活困窮者」の定義は、「現に経済的に困窮し、最低限度の生活を維持することができなくなるおそれのある者」です。しかし、その本来の意味は、単なる経済的な困窮状態に置かれた人ではないということが重要なポイントです。
奥田 そうです。さまざまな悩みを抱えた人を、まずは幅広く受け入れる仕組みになっています。
例えば、以前、生活困窮者の支援団体のシンポジウムで聞いた話ですが、「ネコの飼い方」で相談に来た人がいたそうです。通常なら門前払いされてもおかしくない。でも、対応した職員は考えたのです。家族や近所の人に聞けば済むネコの飼い方をわざわざ相談しに来るのは、社会的に孤立しているのではないかと。実際、相談者の家を訪問すると、さまざまな問題を抱えていることが分かったそうです。
鶴 どこに相談すればいいか分からない悩みにこそ、今回の制度で対応していかなければなりません。
山本 まさに、どんな理由、つまり、どんな“入り口”から入っても支援の手を差し伸べられる。そこに人が伴走し、必要な支援につなぐということですね。
奥田 ただ、懸念していることは、出会い、すなわちアウトリーチ(訪問支援)や早期発見という部分です。この制度は相談事業がベースになりますが、役所に窓口を置いて待っているだけでは、困窮者は相談に来ないと思います。私たちのホームレス支援は、毎週、夜の街に足を運び、寝ているおじさんに声を掛けて、コミュニケーションを取り続けます。支援は、声掛けから始まり、中には何年もかけて自立に至る人が少なくありません。経済的困窮のみならず社会的に孤立している人は、相談に来ない、あるいは来られない人々です。
鶴 「相談しよう」という意欲すらない人たちもいます。どうやって、こちらから手を差し伸べていくのかということが課題ですね。
山本 もう一つは相談後の“出口”の問題です。相談者の悩みを解決するために必要なサービスにつなげていくわけですが、出口戦略上、重要な就労準備事業や家計相談事業等を実施するかどうかは、自治体に任されています(任意事業)。
奥田 積極的な自治体と、そうではない自治体との格差が生まれ始めています。昨年末の厚生労働省の統計では、約半数の自治体が初年度は任意事業を一つも実施しないと回答していました。今回の制度を周知するため、行政や地方議員向けのレクチャーを全国的に行えればと思っています。
山本 わが党には約3000人の地方議員がいます。地方議員とのネットワークの力をフルに発揮して、必要な事業の実施と体制の充実に取り組んでいきたいと思います。
奥田 自治体が実施する事業をどう評価するかも課題です。自治体が国に提出する事業の報告書の書式を見ると、就業者が何人、増収が何人とか、数値化しやすい項目に偏っています。そこで、例えば第1に「就労」「増収」、第2に「つながり」「社会参加」、第3に「将来性」、第4に「地域創造」など評価を4類型程度にして、数値化しにくいけれども本人の自立に不可欠な要素を報告書に入れるべきです。
鶴 来訪する意欲のない人に積極的に手を差し伸べる
山本 事業の評価はご指摘の通り多面的に行うことが重要です。これからも政府内で検討していきたいと思います。
奥田 行政の制度である限り、一つの支援に対し「開始」と「終了」の区切りを定めざるを得ません。ところが、非正規雇用者が4割近くを占める現在、一度は就職して危機を脱しても、また失業して危機に陥ることは珍しくありません。
鶴 つまり、第2、第3の危機を想定した長期的な取り組みが必要なわけですね。
奥田 そのような現状においては「問題をいかに解決できるか」というだけでなく、「相談者との関係をいかに保ち続けられるか」という「伴走型支援」を、私は提案しています。関係を保ち続けること自体が「相談」なのです。私はそもそも牧師をしていることもあり、一度支援を始めた相談者とは、それこそ最期のみとりや葬儀まで付き合い続けます。生活困窮者支援は、まさに“終わりなき旅”と言えます。
鶴 深いご指摘です。常に声を掛け続ける。これは、人員や予算が限られた行政支援の限界をどう乗り越えるかという話につながります。
山本 この制度を運用するのは行政や民間団体の関係者だけではありません。地域住民の参加も必要です。生活困窮者を支援することによって、地域のつながりを再構築していく。この制度は地方創生の基盤づくりにもつながると思います。
奥田 伴走型支援のモデルは家庭にあると考えてきました。そして、家庭には四つの機能があると想定しました。第1に生活に必要なものを提供する「サービス提供」。第2に経験を共有する「記憶」。これは、対処のためのデータベースになります。そして、第3に家庭内で解決できない場合、必要な所につなげる「調整」。第4として、その人に「役割」を与えるという機能です。特に今回の制度は、家庭が持つ第3の機能「調整」を社会でも果たしていくことをめざしています。しかも、単に支援先につなぐだけでなく、いったん失敗しても、再び戻ってこられる場となることが求められています。
鶴 まさに、“温かな家庭を地域社会に広げていく”というイメージですね。
山本 制度は作って終わりではありません。しっかり制度に魂を込め、誰も排除されない、皆が支え合う地域づくりに全力で取り組んでいきます。
おくだ・ともし 1963年生まれ。2000年、NPO法人北九州ホームレス支援機構(現・認定NPO法人抱樸)を設立。NP0法人ホームレス支援全国ネットワーク代表、生活困窮者自立支援全国ネットワーク代表理事なども兼務。
公明党が成立に全力で取り組んできた生活困窮者自立支援法が4月から施行されました。仕事や健康などで深刻な問題を抱えた人を生活保護に至る前に支え、新たな人生への挑戦を後押しする画期的な法律です。この法律に基づく自立支援制度を生かすには、自治体をはじめ関係者の理解と積極的な取り組みが不可欠です。具体的な支援策をつくる上で、地方議員に求められていることは何か。認定NPO法人抱樸の奥田知志理事長、山本香苗厚生労働副大臣(公明党、参院議員)、地方議会でいち早く具体策を取り上げた東京都品川区議会公明党の鶴伸一郎氏に語り合ってもらいました。
山本 経済的な問題だけでなくあらゆる悩みに対応可能
山本 生活困窮者自立支援制度は、生活する上でさまざまな困難を抱える人を地域で自立して生活できるように、個々の状況に応じ、その人の主体性を尊重しながら、相談・支援する制度です。「生活困窮」と一口にいっても、経済面や家族関係、精神的な問題など多くの理由があり、複雑に絡み合っている場合もあります。
鶴 そのような人たちは、なかなか声を上げられず、支援にたどり着けなかったり、既存の制度では救済されず、社会的に孤立したりしているケースが少なくありません。
山本 公明党は結党から半世紀にわたり、生活者に寄り添い、支え続けてきました。民間の立場から、そうした人々の支援に先駆的に取り組んでこられたのが奥田さんたちのような団体です。
今回の制度はいわば、公明党の精神を体現するものであり、民間団体の熱い思いが結実した制度だと思っています。国も地方自治体もしっかり責任を持って、民間と協働体制で、生活困窮者を包括的に支援していきます。
奥田 私たちの活動は今年で27年目を迎えました。ホームレスの支援から始まり、今では生活困窮者支援、さらに貧困家庭の子どもへの学習支援も行っています。困窮者支援の現場に身を置く立場として、今回の制度は本当にうれしく思います。
鶴 制度の特徴をどう見ていますか。
奥田 一言で言うと、「人が人を支援する」ことに力を入れている点でしょう。これまでは、生活困窮者支援というと、お金などの「給付」になりがちでしたが、今回は住宅に関する給付を除いて、それがありません。制度の軸は、相談者をいかに既存の給付制度に結び付けられるかというコーディネート(調整)機能です。
鶴 既存の制度に人を合わせるのではなく、人に合わせて柔軟に制度を活用できるようになったということですね。
奥田 相談者をいかに制度へつなぐか、調整機能が軸
山本 法律における「生活困窮者」の定義は、「現に経済的に困窮し、最低限度の生活を維持することができなくなるおそれのある者」です。しかし、その本来の意味は、単なる経済的な困窮状態に置かれた人ではないということが重要なポイントです。
奥田 そうです。さまざまな悩みを抱えた人を、まずは幅広く受け入れる仕組みになっています。
例えば、以前、生活困窮者の支援団体のシンポジウムで聞いた話ですが、「ネコの飼い方」で相談に来た人がいたそうです。通常なら門前払いされてもおかしくない。でも、対応した職員は考えたのです。家族や近所の人に聞けば済むネコの飼い方をわざわざ相談しに来るのは、社会的に孤立しているのではないかと。実際、相談者の家を訪問すると、さまざまな問題を抱えていることが分かったそうです。
鶴 どこに相談すればいいか分からない悩みにこそ、今回の制度で対応していかなければなりません。
山本 まさに、どんな理由、つまり、どんな“入り口”から入っても支援の手を差し伸べられる。そこに人が伴走し、必要な支援につなぐということですね。
奥田 ただ、懸念していることは、出会い、すなわちアウトリーチ(訪問支援)や早期発見という部分です。この制度は相談事業がベースになりますが、役所に窓口を置いて待っているだけでは、困窮者は相談に来ないと思います。私たちのホームレス支援は、毎週、夜の街に足を運び、寝ているおじさんに声を掛けて、コミュニケーションを取り続けます。支援は、声掛けから始まり、中には何年もかけて自立に至る人が少なくありません。経済的困窮のみならず社会的に孤立している人は、相談に来ない、あるいは来られない人々です。
鶴 「相談しよう」という意欲すらない人たちもいます。どうやって、こちらから手を差し伸べていくのかということが課題ですね。
山本 もう一つは相談後の“出口”の問題です。相談者の悩みを解決するために必要なサービスにつなげていくわけですが、出口戦略上、重要な就労準備事業や家計相談事業等を実施するかどうかは、自治体に任されています(任意事業)。
奥田 積極的な自治体と、そうではない自治体との格差が生まれ始めています。昨年末の厚生労働省の統計では、約半数の自治体が初年度は任意事業を一つも実施しないと回答していました。今回の制度を周知するため、行政や地方議員向けのレクチャーを全国的に行えればと思っています。
山本 わが党には約3000人の地方議員がいます。地方議員とのネットワークの力をフルに発揮して、必要な事業の実施と体制の充実に取り組んでいきたいと思います。
奥田 自治体が実施する事業をどう評価するかも課題です。自治体が国に提出する事業の報告書の書式を見ると、就業者が何人、増収が何人とか、数値化しやすい項目に偏っています。そこで、例えば第1に「就労」「増収」、第2に「つながり」「社会参加」、第3に「将来性」、第4に「地域創造」など評価を4類型程度にして、数値化しにくいけれども本人の自立に不可欠な要素を報告書に入れるべきです。
鶴 来訪する意欲のない人に積極的に手を差し伸べる
山本 事業の評価はご指摘の通り多面的に行うことが重要です。これからも政府内で検討していきたいと思います。
奥田 行政の制度である限り、一つの支援に対し「開始」と「終了」の区切りを定めざるを得ません。ところが、非正規雇用者が4割近くを占める現在、一度は就職して危機を脱しても、また失業して危機に陥ることは珍しくありません。
鶴 つまり、第2、第3の危機を想定した長期的な取り組みが必要なわけですね。
奥田 そのような現状においては「問題をいかに解決できるか」というだけでなく、「相談者との関係をいかに保ち続けられるか」という「伴走型支援」を、私は提案しています。関係を保ち続けること自体が「相談」なのです。私はそもそも牧師をしていることもあり、一度支援を始めた相談者とは、それこそ最期のみとりや葬儀まで付き合い続けます。生活困窮者支援は、まさに“終わりなき旅”と言えます。
鶴 深いご指摘です。常に声を掛け続ける。これは、人員や予算が限られた行政支援の限界をどう乗り越えるかという話につながります。
山本 この制度を運用するのは行政や民間団体の関係者だけではありません。地域住民の参加も必要です。生活困窮者を支援することによって、地域のつながりを再構築していく。この制度は地方創生の基盤づくりにもつながると思います。
奥田 伴走型支援のモデルは家庭にあると考えてきました。そして、家庭には四つの機能があると想定しました。第1に生活に必要なものを提供する「サービス提供」。第2に経験を共有する「記憶」。これは、対処のためのデータベースになります。そして、第3に家庭内で解決できない場合、必要な所につなげる「調整」。第4として、その人に「役割」を与えるという機能です。特に今回の制度は、家庭が持つ第3の機能「調整」を社会でも果たしていくことをめざしています。しかも、単に支援先につなぐだけでなく、いったん失敗しても、再び戻ってこられる場となることが求められています。
鶴 まさに、“温かな家庭を地域社会に広げていく”というイメージですね。
山本 制度は作って終わりではありません。しっかり制度に魂を込め、誰も排除されない、皆が支え合う地域づくりに全力で取り組んでいきます。
おくだ・ともし 1963年生まれ。2000年、NPO法人北九州ホームレス支援機構(現・認定NPO法人抱樸)を設立。NP0法人ホームレス支援全国ネットワーク代表、生活困窮者自立支援全国ネットワーク代表理事なども兼務。